「アイナシ」の花が満開を迎えようとしています。開花も年々早くなり、特に病害虫にも侵され、幹、枝は枯れているところが多く見受けられ樹勢は衰えておりますが、花は昨年並みに咲き桜とは一味違った純白の美しさを見せてくれています。
県指定の天然記念物ではありますが、この1年間病害虫対策に対して三重県教育委員会からは何も協力が得られませんでした。しかしながら、1402名の署名のおかげを持ちまして令和5年度からは消毒等の援助・支援を受けることが可能になったとの報告を受けております。万が一所有者が不在になり、後世に残していくことを考えますと本当にありがたいことです。
23日には、「ナシ」の専門研究機関を有する鳥取大学の田村副学長、竹村准教授のご指導を仰ぎ、1回目の消毒を終えました。4月には2回の消毒を予定しております。
「アイナシ」は、東海地方の一部にしか生育しない自生種の「イヌナシ」と栽培種の「ナシ」とが合わさった自然交配種(偶然の産物)であり,その種子は、ほとんど発芽生育しないとされており,植物学上非常に珍しく貴重なものです。
府南寺の「アイナシ」は、江戸時代はすでに1本の大樹でしたが,明治の中頃に一部の信仰心のない愚かな村人により伐採の危機に会ったと伝えられています。当時の住職らがその貴重さに気づき人災、天災から守り抜き、現在は根元から5本の幹が伸び、非常に珍しい状態で高さ12メートル以上に達しています。樹齢300年以上と考えられ、昭和47年4月1日に県の天然記念物に指定されました。
幾多の危機を乗り越えた歴史ある天然樹木の花です。観光の目的で人工的に植樹された木ではございません。府南寺の「アイナシ」の花は、長い年月が織りなす「自然の恵み・ご縁」かと思われます。
お花見だけでなく、「今」生きていられることに感謝し、お越しの際は本尊(国府阿弥陀如来、国府千手観世音菩薩)に手を合わせていただきましたら幸いに存じます。その際、般若心経、阿弥陀如来の真言(おん あみりた ていぜい からうん)、千手観世音菩薩の真言(おん ばざら たらま きりく)を唱えていただければなお一層心が穏やかになられることでしょう。残念ながら、老若男女問わず、「生かされている」ことに感謝して手を合わせる習慣のなくなりつつある日本という国ですが、できましたら静かに心を整えていただく機会を持っていただけたら幸いに存じます。合掌
なお、「アイナシ」の花が咲く時期になると電話での問い合わせをされる方がお見えになります。法務に支障を及ぼす場合がございますので、どうかお電話での問い合わせはご遠慮ください。
中日新聞 鈴鹿・亀山版 3月28日(火)