泰平山府南寺には、運慶の真作と伝わる金剛力士像(国の重要文化財)が仁王門に安置され、この山門を潜り抜けると、本堂(観音堂)前に狛犬(こまいぬ)が鎮座しています。一般に寺院の山門の仁王像や神社の社頭におかれる狛犬像は、一方が(阿形あぎょう)口を開き、一方が(吽形うんぎょう)口を閉ざしています。仁王門に安置された仁王像は、本尊の守護神として金剛力士像「金剛杵(こんごうしょ、仏敵を退散させる武器)を持つ天部神」とも言い、一対の獅子に似た狛犬像も守護、魔除けのために安置されています。
阿吽(あうん)は密教の真言の一つです。梵字(ぼんじ)において、阿は口を開いて最初に出す音、吽は口を閉じて出す最後の音であり、そこから、それぞれ宇宙の始まりと終わりを表す言葉とされ、阿吽の二字に、物事の真理(それぞれ万有の原理「原因」からそれらの帰着する智徳「結果」を得る)が込められています。また、自ら悟りを求める心(菩提心)と他人に対して悟りに至らせる心、いわゆる自利利他(じりりた)の働きが備わることを意味します。
転じて、ものごとを行う時に二人の呼吸、調子がぴったりと合うことを「阿吽の呼吸」と言いますが、とりわけ相撲の仕切りなど、力士双方の呼吸がよく合い、見事な立ち合いとなるとき人々の心を打つ名勝負となります。相撲は、神事であり、天下泰平・子孫繁栄・五穀豊穣・大漁等を願い、立ち合いの前の四股は、土中の邪気を払う意味の儀礼で特に重視されます。
物質的には豊かな世の中になりましたが、一人一人が些細なことで他人を傷つけ、古来からの仏教の教えが修得されにくい自我の強い世になってしまいました。諸事万端、お互いが息を合わせて助け合うことの大切さ、阿吽の心得が今の世の中には大切なのではないでしょうか。 合掌
≪府南寺・観音堂前の狛犬≫