世界中を不安に陥れたコロナウィルスも少しずつ終息に向かおうとしております。現代人に対して警鐘を鳴らすかのように感染症の歴史は繰り返されます。感染症に対する認識としては過度に恐れ冷静さを失うのではなく、どのようにすれば感染症との「共生」をうまく計ることができるかを一人一人が考えなければなりません。
今の世の中は人と人との心の結びつきが希薄になり、生涯の友をもつこともなく、よき師を得ることもできず、肉親でさえ真の理解者と言えない世の中になってきているのではないでしょうか。弘法大師(空海)は秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)の中で以下のように説いています。
狂毒(きょうどく)自ら解(と)けず、医王(いおう)よく治(なお)す。
摩尼(まに)自ら宝にあらず、工人(こうじん)よく瑩(みが)く。
猛毒は自分ではなかなか消し去ることはできない。ところが名医にかかるとあっという間に治療することができる。ダイヤモンドのような宝石は元から輝いているわけではない。優れた職人が丹念に磨くことによって光り輝く宝石となる。
私たちの生活には、医王と工人にあたる存在がいかに大切か。思い悩み、苦しいとき適切なアドバイスをしてくれる人物、また、才能、素質を見出し輝かせてくれる人物に出会えることの大切さ。
自分の欲と業を貫き煩悩でまみれた独りよがりな人間が多い現代社会(良いご縁には恵まれにくい社会)であるからこそ周囲との絆を深めていく努力が大切であると弘法大師は言っているのです。
良いご縁がありますように。合掌
府南寺の賓頭盧(びんずる)尊者