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◎国府阿弥陀如来(竹布の袈裟)伝説

 昔々、奈良の西大寺に覚乗(かくじょう)という、それはそれは偉いお坊様がいた。大変頭がよく、一を聞けば十を知ることは言うにおよばず、一度読んだ書物はすべて暗記しているという人であった。また、誰からも好かれ、身についた品性、善道、正義に従った人格は人々の模範であった。

 ある時、この覚乗上人は考え込んでいた。「大神宮様(伊勢皇大神宮の天照大神)の本当の姿にお目にかかりたい」と。上人は、百日間の願掛けに入った。参籠(さんろう)祈願して九十九夜の丑(うし)の刻(午前3時頃)に上人の夢枕に「汝(なんじ)我が本当の姿を知りたいならば、夜明けに二見ヶ浦に来てみよ」とのお告げがあった。 覚乗上人は、未明にもかかわらず、喜び勇んで二見ヶ浦へ急いだ。二見ヶ浦に着いて、しばらく海面を眺めていると、海面がにわかに照り輝き、一丈(約3メートル)程の金色の龍が現れた。覚乗上人は驚き、あまりの輝きに目がくらみ、本当のお姿を見つめるどころか立っていることさえ困難であった。覚乗上人は、とっさに身につけている竹布(絹製)の袈裟(けさ)を脱いで龍に投げかけた。すると不思議なことに龍は、満足気に水中に没し、辺りは何事もなかったように静まり返った。そこには浜辺に打ち寄せるさざ波の音だけがあった。

 その後、覚乗上人は再び大神宮の真の姿をはっきりと拝みたいと思い、祈願に入った。祈願が満願の夜半、天から声が聞こえた。「覚乗上人よ、私の真の姿を見たいのなら、ここより北にある国府の里(現在の鈴鹿市国府町)泰平山無量寿寺(現在の泰平山府南寺)に向かうがよい。そこに安置されている国府阿弥陀三尊(阿弥陀如来、観世音菩薩、勢至菩薩)こそが、私の本当の姿である。その阿弥陀三尊を拝めば、私の本当の姿が分かるであろう」と、はっきりした声でお告げがあった。 覚乗上人は、ことのほか大喜びし、国府の里の無量寿寺(府南寺)を訪れた。

 覚乗上人は、無量寿寺の良範(りょうはん)法印に今までのことを話した。すると、良範法印も「実は、私も前夜、本尊からお告げあった」と打ち明けるのであった。そのお告げの内容は、「夜が明ければ、一人の僧が来て阿弥陀三尊を拝ませてほしいと言ってくるが、決して断ってはならない」ということであった。

 泰平山無量寿寺の本尊は、古来から秘仏とされ扉は閉ざされている。しかし、良範法印は、「これは、開帳(かいちょう)の時が来たお告げであろう」と考えた。そこで、神妙に扉を開けると、しばらくの間、本尊は神々しく光り輝いていた。 覚乗上人と良範法印をはじめ、集まってきた村人たちとともに阿弥陀三尊を拝んだ。

 覚乗上人は、頭を上げ、本尊を眺めた瞬間、「あっ!」と声を上げた。目の前に二見ヶ浦で覚乗上人自身が龍に投げかけた「竹布の袈裟」が、なんと阿弥陀如来像の肩にかかっているではないか。国府の里の阿弥陀如来が、伊勢皇大神宮の本地仏(ほんじぶつ)であると謂われる由縁である。

 ★この「竹布の袈裟」が今も府南寺に保存されている。

 

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